はじめに
ANCA関連血管炎治療薬「タブネオス(一般名:アバコパン)」について、国内外で重篤な肝障害や胆管消失症候群(VBDS)が報告され、注目されています。
本記事では、
- タブネオスとはどのような薬か
- 適応症
- ANCA関連血管炎とは何か
- C5a受容体阻害という作用機序
- 低分子医薬としての特徴
- 臨床試験と市販後使用数
- 胆管消失症候群とは何か
- 現在の安全性情報
について、公表情報をもとに整理します。

図1. ANCA関連血管炎における「ANCA→好中球活性化→補体C5a/C5aR増幅→血管炎」
タブネオスとは
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 一般名 | アバコパン(avacopan) |
| 開発コード | CCX168 |
| 薬効分類 | 選択的C5a受容体拮抗薬 |
| 投与経路 | 経口 |
| 分類 | 低分子医薬品 |
| 日本販売 | キッセイ薬品工業 |
アバコパンは、米国ChemoCentryx社によって創製された低分子医薬品です。
その後、
- Vifor Fresenius Medical Care Renal Pharma社
- キッセイ薬品
へと導入・開発され、日本では2021年に承認されました。
現在、ChemoCentryx社はAmgen社に買収されています。
タブネオスの適応症
日本での適応症は以下の2疾患です。
| 指定難病 | 疾患名 | 適応 |
|---|---|---|
| 指定難病43 | 顕微鏡的多発血管炎(MPA) | ○ |
| 指定難病44 | 多発血管炎性肉芽腫症(GPA) | ○ |
| 指定難病45 | 好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA) | × |
EGPAは日本では適応外です。
ANCA関連血管炎とは
ANCA関連血管炎は、
- MPO-ANCA
- PR3-ANCA
などの自己抗体が関与する自己免疫性血管炎です。
主に、
- 腎臓
- 肺
- 神経
- 上気道
などの小血管が障害されます。
タブネオスの作用機序
ANCA関連血管炎では、
ANCA
↓
好中球活性化
↓
補体系C5a増幅
↓
血管炎悪化
という流れが考えられています。
タブネオスは、
- C5a受容体(C5aR)
を阻害することで、好中球活性化を抑制します。
低分子医薬としての特徴
アバコパンは抗体医薬ではなく、経口投与可能な低分子医薬品です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 分子式 | C33H35F4N3O2 |
| 分子量 | 約581.64 |
構造的には、
- ピペリジン環
- 芳香環
- フッ素基
- トリフルオロメチル基
などを持つ疎水性の高い化合物です。
臨床試験と日本人症例数
タブネオスの承認根拠となった第III相ADVOCATE試験は国際共同試験でした。
| 区分 | 症例数 |
|---|---|
| アバコパン群 | 166例 |
| プレドニゾン群 | 164例 |
| 日本人組入れ | 21例 |
つまり、大部分は海外症例でした。
一方で、市販後には日本国内で約8,500例以上に使用されたとされています。
現在問題となっている重篤な肝障害
現在、
- 重篤な肝機能障害
- 胆汁うっ滞性肝障害
- 胆管消失症候群(VBDS)
などが安全性上の重要課題となっています。
死亡に至った症例報告もありますが、因果関係評価中の症例を含みます。
胆管消失症候群(VBDS)とは
胆管消失症候群とは、
肝臓内の細い胆管が減少・消失し、胆汁うっ滞を起こす病態です。
その結果、
- 黄疸
- 強いかゆみ
- 倦怠感
- 肝機能悪化
などが起こる場合があります。
※ 本記事中の胆管図は模式図です。
なぜ胆管障害が起こるのか
現時点で、詳細な発症機序は完全には解明されていません。
現在は、
- 薬剤性肝障害
- 胆汁うっ滞型障害
- 免疫学的特異体質反応
などの関与が考えられています。
安全性情報と今後の議論
タブネオスでは、承認時から肝機能障害は重大な副作用として記載されていました。
一方、
- 胆管消失症候群(VBDS)
は、国内症例集積を受け、2026年5月に重大な副作用へ追記されました。
今後、
- 市販後安全性評価
- 日本人特異性
- リスク因子解析
などがさらに進む可能性があります。
注意すべき症状
以下の症状がある場合は、医療機関への相談が必要です。
- 黄疸
- 尿が濃い
- 強いかゆみ
- 倦怠感
- 食欲低下
- 吐き気
- 肝機能異常
まとめ
タブネオス(アバコパン)は、
- MPA
- GPA
に適応を持つ低分子C5a受容体阻害薬です。
一方で、市販後に重篤な肝障害や胆管消失症候群が報告され、安全性評価が重要な課題となっています。
今後もPMDA・FDA・製薬企業による継続的評価が注目されます。
※ 本記事は公開情報をもとに整理した一般的医療情報です。
※ 個別の治療判断は、必ず主治医・専門医にご相談ください。
※ 最新情報はPMDA・添付文書をご確認ください。
【出典】
キッセイ薬品
https://med.kissei.co.jp/
難病情報センター
https://www.nanbyou.or.jp/
PubChem
https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/
作用機序漢検の参考文献等
■ ANCA関連血管炎の基礎
難病情報センター
ANCA関連血管炎の疾患概要
日本腎臓学会
ANCA関連血管炎診療ガイドライン
■ タブネオス(アバコパン)関連
PMDA 審査報告書
アバコパンの承認審査資料
https://www.pmda.go.jp/drugs/2021/P20211014001/230034000_30300AMX00453_A100_1.pdf
PMDA 添付文書
タブネオス医薬品情報
https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/ResultDataSetPDF/3999056_3999056M1026_1_09
キッセイ薬品 製品情報
作用機序などの解説
https://med.kissei.co.jp/products/tabneos
■ C5a / 補体系 / 好中球活性化
Nature Reviews Rheumatology
ANCA-associated vasculitis and complement pathway review
https://www.nature.com/articles/nrrheum.2017.37
Nature Reviews Rheumatologyのレビューは、ANCA関連血管炎ではANCAによる好中球過剰活性化と補体C5a–C5aR経路が炎症増幅に重要な役割を果たし、補体系が治療標的になり得ることを解説している。
Journal of the American Society of Nephrology
C5a pathway in ANCA vasculitis
https://jasn.asnjournals.org/content/28/9/2606JASNの第II相試験論文は、ANCA関連血管炎で補体C5a–C5aR経路を標的にする根拠を示し、経口C5a受容体阻害薬アバコパンがステロイド減量・代替戦略として有効性を検討された臨床試験です。
New England Journal of Medicine
ADVOCATE trial(第III相試験)
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2023386
NEJMのADVOCATE試験は、ANCA関連血管炎患者331例でアバコパンが26週寛解ではプレドニゾン漸減療法に非劣性、52週持続寛解では優越性を示した第III相試験です。
■ 胆管消失症候群(VBDS)
LiverTox
Vanishing Bile Duct Syndrome
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK548715
Vanishing Bile Duct Syndrome(VBDS)は、薬剤性肝障害などを契機として肝内胆管が減少・消失し、持続的な胆汁うっ滞を起こす稀だが重篤な病態であると解説している。
NIH / PubMed Review
VBDS review article
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4698643
■ 安全性情報
キッセイ薬品 安全性情報
重篤な肝機能障害
https://med.kissei.co.jp/information/info145.pdf
キッセイ薬品は2026年5月、タブネオス(アバコパン)で重篤な肝機能障害や胆管消失症候群(VBDS)が国内で報告されているとして、新規患者への投与を控えるよう医療関係者へ注意喚起した。
FDA Drug Safety Communication
FDAは2026年3月、タブネオス(アバコパン)で重篤かつ致死的な薬剤性肝障害(DILI)および胆管消失症候群(VBDS)の市販後症例が報告されたとして安全性警告を発出した。


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